6372128 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

文春新書『英語学習の極意』著者サイト

文春新書『英語学習の極意』著者サイト

泉ユキヲの観た・読んだメモ 44

令和6年9月12日から    の実況です。項目ごとに、日付を遡る形で記載しています。
ひとつ前の 令和6年4月28日~9月11日 の実況はこちら。


観 た:

令061120 テーバイ @ 新国立劇場 小劇場

令061120 Takesada Matsutani 松谷武判 | 収蔵品展081 抽象の小径 | project N 96: Nakabayashi Arisa ナカバヤシアリサ @ 東京オペラシティアートギャラリー

令061119 MET Opera|Jacques Offenbach: "Les Contes d'Hoffmann" @ 東劇

令061118 森本啓太 Illuminated Solitude @ 銀座蔦屋書店 Atrium

令061118 川瀬巴水 木版画展 @ Artglorieux Gallery of Tokyo

令061115 星山耕太郎 Psychological Collage V: Layout Painting @ roidworksgallery

令061115 生誕130年記念 北川民次展 メキシコから日本へ Kitagawa Tamiji Retrospective: From Mexico to Japan | Transition 難波田龍起・村井正誠・堂本尚郎 かわりゆくもの、かわらないもの What Changes and What Does Not | 女優・高峰秀子特集 | 世田谷区障碍者施設アート展/アトリエ・アウトス展 @ 世田谷美術館|区民ギャラリー

令061114 中島玲菜 個展「冬のほとり」(白墨画) @ Gallery Mumon

令061114 カルメン故郷に帰る @ 東劇

令061113 山下陽光のおもしろ金儲け実験室 @ 生活工房ギャラリー

令061113 そのいのち(脚本・佐藤二朗、演出・堤泰之) @ 世田谷パブリックシアター

令061111 吉永朋希 展 情景描写 @ Gallery b. Tokyo

令061108 日月美輪(ひづき・みわ) 日本画展 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061107 野見山暁治追悼 野っ原との契約【前期】(1937~1964) @ 練馬区立美術館

令061106 しりあがり寿 個展 十五羅漢s @ art space kimura ASK?

令061106 Toyen : L'Origine de la vérité (トワイヤン 真実の根源) @ ユーロスペース

令061105 Dreams That Money Can Buy (金で買える夢) @ ユーロスペース

令061104 富士フイルムグループ創立90周年記念 企画展 「写楽祭(しゃらくさい)! ― 日本の写真集 1950~70年代」 | ロベール・ドアノー写真展 第2部「”永遠の3秒” の原点」 | 吉岡泰良写真展 「Boundary ― クリケットから広がる世界」 @ フジフイルムスクエア

令061104 第11回 日展 @ 国立新美術館

令061030 マックス・エルンスト 放浪と衝動 Max Ernst: Mein Vagabundieren - Meine Unruhe | 謎の巨匠 ルネ・マグリット Rene Magritte, le maitre du Mystere @ ユーロスペース

令061029 ナミビアの砂漠 @ Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下

令061028 Kinds of Kindness 憐みの3章 @ TOHOシネマズ日比谷

令061025 はり絵画家 内田正泰「四季の詩」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061025 ピローマン @ 新国立劇場 小劇場

令061024 草木人間(西湖畔に生きる) @ Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下

令061022 Terence Conran: Making Modern Britain @ 東京ステーションギャラリー

令061022 たまゆらのともしび展(清田範男ほか) @ ギャラリーうえすと

令061021 Lauren Gunderson: "Silent Sky"(朝海ひかる、高橋由美子、保坂知寿、竹下景子ほか) @ 俳優座劇場

令061020 大野泰雄個展 GIGA GIGA @ 不忍画廊

令061020 日本版画協会 第91回版画展 @ 東京都美術館 ロビー階 第1・2・3展示室

令061020 黄土水とその時代 台湾初の洋風彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校 @ 東京藝術大学 大学美術館 本館展示室3・4

令061020 藤原信幸退任記念展 ~ガラス造形20年の軌跡~ @ 東京藝術大学 大学美術館 陳列館1・2階

令061018 ピローマン @ 新国立劇場 小劇場

令061017 前田伸子 ガラス絵展「色彩の宝石箱」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061017 建石修志 個展 「手紙が届く・・・」 @ span art gallery

令061016 安部公房展|21世紀文学の基軸 Kobo Abe Exhibition: An Axis of 21st Century Literature @ 神奈川近代文学館

令061013 Azusa Iida: Spotlight  @ MU Gallery

令061013 田島享央 Takaoki Tajima: I Believe in You @ gallery UG Tennoz

令061013 Rhizomatiks Beyond Perception @ Kotaro Nukaga

令061013 Collecting? Connecting? 現代アートでつながる T2 Collection @ What Museum

令061013 Meet Your Art Festival (MYAF) 2024 "New Era" @ Tennoz Canal Area

令061012 鈴木和道 油彩画展「寛やかな小景 3rd in Hana」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令061010 台風23号(赤堀雅秋・作) @ Theater Milano-Za

令061009 Broadway HD | Ernest Shackleton Loves Me(アーネストに恋して) @ 東劇

令061007 icon Contemporary Photography 2024: 池谷友秀/Hajime Kinoko/PHOTOGRAPHERHAL/大和田良/地蔵ゆかり/塩原真澄/ELTON CHEN・森下葵衣 @ art space kimura ASK?

令061007 灯に佇む(加藤健一事務所、堤泰之・演出) @ 紀伊國屋ホール

令061004 前澤妙子 ”宇宙少年少女 Anti Gravity” @ Gallery s + arts

令061004 田名網敬一 記憶の冒険 Keiichi Tanaami: Adventures in Memory @ 国立新美術館 企画展示室1E

令061004 井澤由花子 Move | 尾関立子 とある場所 @ Gallery Tsubaki

令061003 田中鈴花 個展 オーバーラップ、オーバーライド @ Gallery b. Tokyo

令061002 Nerhol 展 水平線を捲る Turning the Leaves of Horizons @ 千葉市美術館

令061001 TOPコレクション 見ることの重奏 The Resonance of Seeing @ 東京都写真美術館 3F

令061001 松本路子 監督 Viva Niki:タロット・ガーデンへの道 The Spirit of Niki de Saint Phalle @ 東京都写真美術館 1Fホール

令060928 安原 優 展 @ Gallery Artone

令060928 逆柱いみり個展「走らない自動車 歩けないロボ」 @ ビリケンギャラリー

令060928 阿部愼藏 油彩画展 @ 新生堂

令060928 鈴木琢未 個展「時が降る」 @ Gallery Mumon

令060924 MET Live | Giuseppe Verdi: "Ernani" @ 東劇

令060922 MET Live | Charles Gounod: "Faust" @ 東劇

令060920 池田実穂 木版画展「モノローグ」 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令060919 池田萌々恵 展 1/n(エヌブンノイチ) @ Gallery b. Tokyo

令060918 MET Live | Daniel Catán: "Florencia en el Amazonas" @ 東劇

令060917 MET Live | Vincenzo Bellini: "La sonnambula" @ 東劇

令060916 高田賢三 夢をかける Takada Kenzo: Chasing Dreams | 収蔵品展080 となりの不可思議 | project N 95 田口 薫 @ 東京オペラシティアートギャラリー

令060913 中川幸夫ガラス作品展 @ Galerie Tokyo Humanite

令060913 李佳遠 展 Ship of Fools @ Gallery b. Tokyo

令060911 たに このみ 「やわらかい庭」 @ hiromart gallery

令060911 National Theatre Live
| Tim Price: "Nye" 「ナイ ― 国民保健サービスの父」
 @ シネ・リーブル池袋

令060910 Emi Katsuta: Moonlight Shadow @ 靖山画廊

令060910 シュルレアリスムとアブストラクト・アート 館蔵品展 もっと魅せます! 板橋の前衛絵画 @ 板橋区立美術館

令060909 Kamiyama Art カドリエンナーレ 2024(橋口美佐、三鑰彩音ほか)| 野原綾乃 展 絽刺しの世界 @ 上野の森美術館

令060906 コレクターによる田端麻子展 | 濱 美由紀「たんけんえほん原画展」 @ Gallery 枝香庵

令060906 1980-89s ー80年代うまれの作家の展覧会ー @ The Artcomplex Center of Tokyo

令060906 船山佳苗 展「手の内みせようか?」 @ Gallery Face to Face

令060905 MET Live | Jake Heggie: "Dead Man Walking" @ 東劇

令060904 黒木重雄 展 @ art space kimura ASK?

令060902 箱男 @ 東宝シネマズシャンテ

令060828 渺渺展 @ 佐藤美術館

令060828 ジャン=ミッシェル・フォロン 空想旅行案内人 Folon: Agency of Imaginary Journeys @ 東京ステーションギャラリー

令060827 長谷川光一 展 @ ギャラリー惣

令060827 長沢 明 展 @ Galerie Chene Tokyo

令060827 コノハ展 Konoha「何が言いたい?」 @ Galerie Tokyo Humanite bis

令060824 世良郎二 個展「世良郎二 ≒ 天明屋尚」 @ Gallery Mumon

令060824 MET Live | Giuseppe Verdi: "Ernani" @ 東劇

令060823 MET Live | John Adams: "Doctor Atomic" @ 東劇

令060821 佐野明子 展 ~Castles made of 粘土~ @ Oギャラリー UP・S

令060821 石井武夫と教え子有志たち展(川邊りえ ほか) @ ギャラリー ムサシ

令060820 川崎市市制100周年記念「藝術は、自由の実験室 ― 夏のアートキャンプ」展(國久真有、園部惠永子、西除闇、村上力)|「目もあやなオバケ王国 岡本太郎のオバケ論」 @ 川崎市岡本太郎美術館

令060820 幻想のフラヌール 版画家たちの夢・現・幻 Visionary Flaneurs: The Dreams, Realities, and Visions of Artists | 飯田善國の版画と≪彫刻噴水・シーソー≫ @ 町田市立国際版画美術館

令060819 赤塚友里 展 | 木版画と造形 長澤's 二人展(朝子・博昭) @ ギャラリー檜

令060814 高橋龍太郎コレクション決定版 日本現代美術私観 ひとりの精神科医が集めた日本の戦後 A Personal View of Japanese Contemporary Art | 開発好明 Art Is Live ひとり民主主義へようこそ Yoshiaki Kaihatsu: Welcome to One-Person Democracy | MOTコレクション 竹林之七妍 特集展示・野村和弘 Eye to Eyeー見ること @ 東京都現代美術館

令060812 大竹夏紀 展 宇宙のどこかにある山 @ Gallery b. Tokyo

令060812 鈴木律子 展 @ アートスペース羅針盤

令060812 サイドコア展 コンクリート・プラネット Side Core: Concrete Planet | Kenny at On Sundays @ ワタリウム美術館|Museum Shop On Sundays LightSeed Gallery

令060812 ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と @ 岡本太郎記念館

令060812 アックス夏祭り 私の好きな名画たち @ ビリケンギャラリー

令060806 Nam Euihyeon 展 The Garden(油画とブロンズ彫塑) @ Gallery b. Tokyo

令060806 Waypoint(東京藝大日本画3年生9人展) @ アートスペース羅針盤

令060806 大地に耳をすます 気配と手ざわり(榎本裕一、川村喜一、倉科光子、ふるさかはるか、ミロコマチコ) @ 東京都美術館 ギャラリーA・B・C

令060806 デ・キリコ展 Giorgio de Chirico: Metaphysical Journey @ 東京都美術館

令060802 まずるやさん・初個展【No.0】あつまれ、まずる好き。 @ Gallery Hana Shimokitazawa

令060801 蒼野甘夏 日本画展「夢とあこがれと強さ」 @ Gallery Mumon

令060801 クララ・デジレ個展 風変わりな子供 Child Oddity @ Sho+1


読 ん だ:

令061121 汝、星のごとく    (講談社、令和4年刊)    凪良ゆう 著
(続篇の『星を編む』を先に読んでいたが、それもありだ。明日見菜々は最後の浜辺の花火のシーンで「はじめまして」と登場する。その2年前、30歳の井上暁海が「櫂は手の届かない星のように、いつまでもそこに在り続ける」と言う。そして遠くの櫂に向かって「わたしにとって、愛は優しい形をしていない。どうか元気でいて、幸せでいて、わたし以外を愛さないで、わたしを忘れないで。愛と呪いと祈りは似ている」と。北原先生の「きみが本当になにかを欲したときは、必ずぼくが助けようと決めていました」も、じんとくる。ぼくは自分を北原先生に重ね、菜々と暁海をなっちゃんに重ねている。)

令061116 実践 日本人の英語    (岩波新書、平成25年刊)   Mark Petersen 著
(日本語学習者が口に出す微妙に変な日本語の例を挙げることにより、日本人がおかす英語の誤りのおかしさが感覚的にわかるのがいい。「暑くて、気をつけてください」「頼むので、やってくれ」など。日本人が軽く考えて頻繁に使いがちな so (=therefore) の誤用や、almost を意味する practically など。仮定法を使うか否かが、表出者の感覚のなかの「確率」意識に基づくというのも分かりやすい。学校英語で高校にならないと仮定法を扱わないことを批判しているが、もっともだ。過去形が「現在はそうでない」ことを言外に示すという指摘も良い。I searched my wallet. が「財布の中を探した」で、財布を探すのなら for が必要、そうなんだよね。The kiosk sells newspaper. が「新聞紙を販売している」意味なのも笑える。)

令061116 角川短歌叢書 栗木京子歌集 けむり水晶     (角川書店、平成18年刊)    栗木京子 著
(2004年の栃木兄弟誘拐殺人事件に取材した長歌・反歌「いのち還らず」が圧巻。≪子らのたましひ いつの日か きつと還り来よ すこやかに 朝光(あさかげ)となり 夕風となり≫ で終わる絶唱だ。その他の、自衛隊イラク派遣やライブドアに取材した短歌は鼻白むが、昆虫嘱目歌に情景鮮烈な佳品多し。|たったいま羽化を終へたるギンヤンマいのちをかけて翅ひろげたり|蟻よりも大きな雨粒地を打ちて蟻の宇宙は満ちあふれたり|シジミ蝶はときをり揚羽蝶よりも高く飛ぶなり蔓薔薇の園|しづかなる九月 仔猫に食はれつつなかなか死なぬバッタ見てをり|電車にて「まいど」と声を掛けきしは関取ほどに太れる息子|デパートに百円ショップ出店せりやがてデパートもここで売られむ)

令061115 All the Beauty in the World: The Metropolitan Museum of Art and Me     (Simon & Schuster, New York 2023)    Patrick Bringley 著
(メトロポリタン美術館のアート案内かと思いきや、NYT 紙の The Metropolitan Diary のような趣きのエッセーである。だが読み終わってみると、著者のアート体験が心に沁みるようにこの胸に残る。|いま folk art を self-taught と言い換える動きがある由だが、著者はこれに異議を唱える。なるほどであって、いかなるアートも他者の教えを受けているのは確か。著者が10年あまりのガードスタッフの仕事を辞める日、あいかわらずの「モナリザ」はどこだ? と質問する来客に遭遇するあたりが、本書らしくて微笑ましい。|Art often derives from those moments when we would wish the world to stand still. Artists help us believe that some things aren't transitory at all but rather remain beautiful, true. . . )

令061109 言語学バーリ・トゥード Round 2 言語版 SASUKE に挑む     (東京大学出版会、令和6年刊)    川添 愛 著
(本書の Round 1 はパラパラ見て放棄したのだが、Round 2 は いけた。「-がち」例の、RG 作「水槽あるある:使わなくなった水槽、雑居ビルの階段の踊り場に置いてありがち♪」とか、「のび太のくせになまいきだぞ!」が存在そのものが全否定される過酷なニュアンスだとか、錦鯉の漫才冒頭の「頭が良くなる本を買ったよ!」「早く読めよ」とか、「不-」「未-」「非-」のうちで「~性」「~的」型の熟語を包み込んで否定できるのは「非-」だけだとか。)

令061107 フィッツジェラルド短編集    (新潮文庫、平成2年刊)   Francis Scott Fitzgerald 著、野崎 孝 訳
(6篇を収める。名訳だが古くなってしまった語彙があり残念(大邸宅の意味での「マンション」や、「お母ちゃま」)。The Ice Palace が直球勝負で好き。The Rich Boy(金持の御曹子)読み応えあり。The Swimmers のサスペンスもいい。)

令061107 歌集 狂はば如何に Quid Si Insanio    (角川書店、令和4年刊)   高橋睦郎 著
(祝 文化勲章受章。岡井隆さんも高橋睦郎さんも、日本文藝の悪しきジャンル分断を軽やかに越えるかたがただ。|情欲の失せてののちを情欲の記憶燻(いぶ)るに老いはくるしむ|老人は切れやすい なら切れやすい部位断ち切つておけ豫(あらかじ)め|八十坂に立ち振り返り見遥かす来し方凡そ坂ばかりなる|福音書イエス、マリアの終り述べあはれヨセフの終り言はずも|骨となり水と気となり無に空に風に紛れて失せむとこしなへ|臭ひことに妖しき乳酪よろこぶは大き七つの罪のいづれぞ|草上の裸のひとり浄ければその他着衣の者みな瀆る|無花果の香に愛で癡(めでし)れて動けざる愚かの蠅の一つかわれも|太后の好みしといふ菜単にふと人肉の臭ひ立たずや|ロボットを産みし胎(はら)なる人の脳子宮よりげになまなましかも)

令061106 月のうた    (左右社、令和6年刊)
(「月」のある百人一首らしき。多くのライトヴァースな作品がつまらんのは、リアリティ追及をはなから放棄しているからだろう。|まつぶさに眺めてかなし月こそは全(また)き裸身と思ひいたりぬ 水原紫苑|月を見ながら迷子になった メリーさんの羊を歌うおんなを連れて 穂村 弘|もう十分自分を責めたひとの眼にだけ映り込む新月のひかり 寺井奈緒美)

令061104 私の戦後短歌史    (角川書店、平成21年刊)   岡井 隆 語り、小高 賢 聞き手
(コップのなかでエリートが結社をなしてうごめく時代が、文士の崩壊に遅れつつ変質しつつあったが、俵万智さんで一気に臨界変容したさまを、さらに先んじたところから伴走したのが岡井さん。長生きすれば高橋睦郎さん同様に文化勲章を受章されていたろう。|≪現代詩が衰弱してきているが……日本の古典、あるいは明治以来のさまざまな文語の滋養分を十分利用すれば、あるいは別の道が生まれたかと、つくづく思う。塚本さんの歌を詩のなかへとりこんだら、別の詩ができたかもしれない≫)

令061101 句集 一夜劇 Ichiya-Geki    (ふらんす堂、平成28年刊)   中原道夫 著
(第12句集、62~64歳の作を収める。『銀化』『歴草』に比べ64歳の作は、うがちがわざとらしく感じられ面白みが失せた。この差は何なのか。『一夜劇』は「蝿帳の中より匂ふ一夜劇」の句から来るが、この句が意味不分明。夫婦の一悶着でもあり、2015年11月のパリ同時多発テロの呪われた一夜のことでもあると言うが。|外套の呪縛の重さ脱いで知る|磨ぐまへの米の温さよ良寛忌|棟梁はつひぞ焚火に当たらざる|立錐の余地春雨の傘立に|頑固より依怙地厄介野を焼ける|軌道逸れはたとかぎろひゆく漢|夏近し磁石のSとS不仲|人拒むためのふらここ強く漕ぐ|弔句より慶句むつかし牡丹鱧|亜細亜とふ汗し雑交する臭気|しのび咲くものにも夕立容赦なく|四の五のと言ひて麦めし残さざる|蟷螂は不憫や鎌を置かず寝る|茶巾鮨やぶれて中の春のぞく|雛壇の解体も済み昼の酒)

令061101 What If If Only    (Nick Hern Books, London 2021)   Caryl Churchill 著
(2024年9月10~29日に世田谷パブリックシアターで大東駿介・浅野和之らが演じた「What If If Only ― もしも もしせめて」の原作本。Someone が Future および Present と対話する哲学劇。|付録の Air は、シュルレアリスムにいう自動記述の散文詩のような3篇。)

令061031 中原道夫句集 歴草 so fuki    (角川書店、平成12年刊)   中原道夫 著
(第5句集、47~49歳の作を収める。あとがきに ≪『歴草』とは牛馬などの草を岐けて進む胸前の部分の意。私自身、詩歌の荒野を胸で掻き岐けてゆく意志の点検といふ気分が何処かにあつたかもしれぬ≫と。秋の草歴草(そふき)を岐くるべく長ず|雪だるままた酔客にからまるる|見番を通らずに来し雪女郎|陶枕に夢の出てゆく穴ふたつ|「銀化」創刊 色なき風聚め千年待つとせむ|稲架襖狐の閨に一夜貸す|口寄せに呼ばれざる魂雪となる|一兵卒忘れ養蜂箱北へ|腐すなら腐せと椿落ちてける|護摩の火は狼煙そののち花の雲|高知県滑床渓谷 巌削る水の過酷を涼といふ|氷室より足取りはたと跡切れたる|白玉やさも順(まつろ)はぬ顔をして|開け閉ては霧にまかさむ岩襖|飛騨高山・千光寺圓空佛 鉈彫はいまも冬の香放ちたる|最上川 雪見舟酔ひを手伝ふ揺れもなし|春渚ヴィーナスの腕流れ着く)

令061028 A Number    (Nick Hern Books, London 2002)   Caryl Churchill 著
(2024年9月10~29日に世田谷パブリックシアターで堤真一・瀬戸康史が演じた「A Number ― 数」の原作本。劇名はわたしなら「幾人が」と訳したい。クローンである3人(みな瀬戸が演じる)が、クローンの既成概念からは遠く、まったく異なる人生観をもって生き、父親(堤が演じる)と対面する。)

令061027 中原道夫句集 銀化    (花神社、平成10年刊)   中原道夫 著
(俳句界の村上隆の第4句集、45~46歳の作を収める。以前蔵した『中原道夫1008句』は第3句集までなので『銀化』以降は初読だ。諧謔を持ち味にされるが、いま拝読すると詠みっぷりが素直で人情味も深い。動詞が大活躍。|越冬や巣によすがなきもの溜まる|芹の水跨げと言はむばかりなり|きさらぎは摺足ならむ疾く過ぐる|右は奈良左は奈落さくらがり|屏風ならたためるものを春の耶馬|やどかりに遠き殻あり替へにゆく|あめんぼう雲を足蹴とするからは|繭を出てゆかねばならぬ身の上を|手鹽とは甘すぎぬ鹽菊作り|伯耆より新参の雲秋の潮|悼 坂巻純子 病み抜きて白さざんかと化す骨か|鼎談のひとりは雪を気に仕出す|雪見障子さながら過去を開閉(あけたて)す|父らしきことを一度も蝌蚪の紐|巌より水落ちやまぬさくらかな|汗の出ぬ蟻なりよくぞ働ける|ほうたるにあぶりださせてみるもよき)

令061026 デプス    (砂子屋書房、平成14年刊)   大辻隆弘 著
(ぼくより1学年下にあたる宮中歌会始選者の、36~41歳のときの寺山修司短歌賞受賞歌集。内容が変化に富み読み通せはするが、後半とくに舌足らずで意味不明のもの多く無邪気な反欧米の作にも鼻白む。前半は情景描写に優れた作あり。|草むらにボールを探す少年を五月の雲の影が轢きゆく|竹竿は音なく水を探りをり少年がまた上流(かみ)で溺れて|蘭鋳のただれたる頭(づ)をつくりつつ人智は暗くふかく熟れゆく|「娼妓(あそびめ)の唇は蜜を滴らし陰府にいざなふ」戒めよ戒めよ|トンネルに入りてひかりの身ぶるひがわが背後へと伝ふときのま|靴先を舐めよ、と告ぐるをとめあらばやすやすとわれは学校を売る|自転車が側溝の蓋をふんでゆく音が聞えるこれは朝のおと|あらかじめ折り目をつけて開きたる子の折り紙のやうに朝がほ|棄私といふ行為はなべて美しき或いはクメール・ルージュの初期も|下腹を濡れた地面にひきずつて瓦礫を嗅いで行く犬は俺)

令061025 The Pillowman    (Faber and Faber, London 2023)   Martin McDonagh 著
(ダークな劇中童話を7つ盛り込んで、本作ならではの入れ子式の世界を作っている。ピローマンの話、自分を Jesus の生れ変りと信じた少女の話、爆走列車の前の少年に紙飛行機を投げる老哲人の話など。新国立で Katurian は成河さん、Michal は木村了さんが演じた。)

令061014 安部公房 消しゴムで書く    (ミネルヴァ日本評伝選、令和6年刊)   鳥羽耕史 著
(労作。公房さんは「文化人」という存在の黄金期を駆け抜けたひとだ。膨大な資料+関係者への取材が裏打ちするが、評伝そのものはファクトの羅列に近い。真知夫人と果林さんの互いへの思いを漱石流で読みたいところだが、2人の感情的接点は唯一1990年7月21日に東海大学病院で鉢合わせになり真知夫人が「何しにきたのよ!」と怒鳴ったところ。果林さんは結局、公房さんの臨終には立ち会わなかった。公房逝去の翌年に大江がノーベル賞を受賞したが、あれは8割がた公房さんへの授賞だったんだなとぼくは改めて思う。国際派のはずの公房さんは外国語が苦手だった由。)

令061010 紙の動物園    (ハヤカワSFシリーズ、平成27年刊)   Ken Liu 著、古沢嘉通 編訳
(全15篇の短篇のうち、5篇を読んだ。「紙の動物園(The Paper Managerie)」「もののあはれ(Mono no Aware)」「結縄(Tying Knots)」「太平洋横断海底トンネル小史(A Brief History of the Trans-Pacific Tunnel)」「良い狩りを(Good Hunting)」。中国界への敬慕は当然として、日本へのリスペクトを感じるもの多し。)

令061006 恐るべき緑     (白水社 Ex Libris 令和6年刊)   Benjamín Labatut 著、松本健二 訳
(『箱男』と相通ずる理系の狂気のフレーバー。シュレーディンガーとヘルヴィッヒ嬢の濃密な日々が圧巻だ。「空間を紙切れのようにくしゃくしゃにし、時間を蠟燭の炎のように吹き消すことのできる」というブラックホールのための形容語が美しい。「これらの複数の波は、それぞれの波が、電子がある状態から別の状態へと飛び移る際に生まれる宇宙のつかの間のきらめきであり、インドラの網の宝石のように枝分かれして無限を埋め尽くしているのではないか」というシュレーディンガーの思いの何と詩的なことか。アールブリュットの史上初の本格的蒐集家として想定されているジャン=バティスト・ヴァセクと、そのアールブリュット蒐集を発展させた物理学者モーリス・ド・ブロイの逸話も美しいが、壮大なフィクションのようだ。)

令060928 箱男     (新潮社、昭和48年刊)   安部公房 著
(石井岳龍 監督、永瀬正敏 主演の映画「箱男」に導かれて40年以上ぶりに読み始めて、衝撃的に思い知らされたのは学生の頃に30頁ちょっとで挫折していたこと。人間ができてないと、この壮大な叙事詩にはついていけない。|入子状あるいは藪の中、まさに≪手掛りが多ければ、真相もその手掛りの数だけ存在して≫いる。|≪人はただ安心するためにニュースを聞いているだけなんだ。どんな大ニュースを聞かされたところで、聞いている人間はちゃんと生きているわけだからな。≫≪白衣の下の裸は、ただの裸以上に、剝き出された感じがする。≫)

令060925 アートコレクター入門 銀座老舗画廊の主人と学ぶ特別教室     (平凡社、令和6年刊)    田中千秋 著
(必要アイテム全般を座談形式でカバーする。企業経営の事業意欲とアートコレクションの欲望は通底する。≪稼ぐ意欲と美術品を集める意欲はすごく近い。ビジネスを成功させるマインドとアートコレクションを成功させるマインドはイコール≫「欲しがりません、勝つまでは」ではなく≪今は「欲しがる」ことを強く肯定する、それが日本人を救うんじゃないかな≫≪戦国時代で言ったら、この戦いに負けて死んだら一族郎党みな殺されてしまう、というリスクを取る。大胆なことをやる人は「すべて失っても構わない」という覚悟でやるから成功するんじゃないでしょうか。≫≪清貧の代表みたいに言われている良寛和尚も松尾芭蕉も熊谷守一も「面白い生き方をしたい」という意味ではすごくよくの強い人≫≪アートコレクションも、人生も、スティーブ・ジョブズのように積極的寄り道がだいじ≫|日本の税制、とくに輸入消費税は海外から悪名高い。|吉田樹保さんが特筆されててうれしい。戦後すぐの東山魁夷は日本画界に革新的インパクトを与え、その「西洋的透視図法+ベタ塗り(平面厚塗り)+風景描写+精神性の強調」が、その後の日本画をよくも悪くも東山魁夷的にした。)

令060922 失われた時を求めて10 囚われの女 Ⅰ      (岩波文庫、平成28年刊)   Marcel Proust 著、吉川一義 訳
(これまで読んだ中で最もつまらない巻。出てくるのはほとんど「わたし」とアルベルチーヌだけで、しかもその「わたし」は彼女のことを「いささかなりとも愛していたわけではない」と公言し、そのゆがんだジェラシーを前に彼女は「犯人のように小心翼々としていた。彼女の話をろくに聞こうとせず、なにかといえば接吻だ。読了を目指す本作でなければ読むのを止めたろう。この巻以降はプルーストの死後の刊行だが、もしプルーストが存命だったならもっと変化に富んだ内容だったのではなかろうか。)

令060920 小池 光 歌集 梨の花     (現代短歌社、令和元年刊)   小池 光 著
(歌人67~70歳の第10歌集。茂吉と鷗外がお好みだ。とっぽさもあり、切り取りかたにハッとする。愛猫のことも。|駅頭に年賀はがきを売るこゑのときに悲愴味を帯ぶることあり|トンネルに出口あることうたがはず時速二百キロ「はやぶさ」突つ込む|電車窓より過ぎ去りしソープランド「太閤」のネオンそれからの闇|マレー半島銀輪部隊が乗りにける自転車はそれからどうなりしかな|林間のひとすぢの道車窓より一瞬みえて人あゆみをり|春の小川ながれてをりて一瞬にわが電車越ゆそのかがやきを|辛うじて立ちてゐざりて水のみに行きたる影も忘れざらめや|小さくて瘦せつぽつちの猫なりき水のむおとのいみにひびきて|捕らへたるすずめ銜へて見せに来つ褒めてやつたらよかりしものを|「短歌の可能性」などといふ発想がむなしくなりて幾年経たる || 老いのにじみ出る本作が象徴するが、これに続く第11歌集『サーベルと燕』は面白くなくて40頁で読むのを止めてしまった。)

令060922 芸術のわるさ コピー、パロディー、キッチュ、悪     (かたばみ書房、令和5年刊)   成相 肇 著
(気になっていた本。装丁の感じに反し、きまじめな評論集だった。この「わるさ」「悪」とは「いかがわしさ」だ。Xerox 器械が世に出たときのアーティスト側の反応は、ChatGPT を前にしたぼくだ。ディスカバー・ジャパンを批判した中平卓馬ってヤなヤツ;リアルな写真としての説得力を持たせようと現実らしさを装う自称リアリズム。いっぽう植田正治が「ほのぼのさを自ら創作しようとした」とは、なるほど。マッド・アマノにたてついた白川義員も、観念上の庶民に媚びた石子順造も、ヤなヤツ。岡本太郎の「森の掟」― ぼくがいちばん好きな岡本太郎作品だが ― これに光琳の「紅白梅図屏風」や桂ゆき や、早瀬龍江を見取っているのはさすが。篠原有司男とギュウちゃん、岡本太郎とタロー、存在の対照的二面性。|岡本太郎の名言:≪僕の考えているのは芸術の無意味性です。意味を否定するところに真の芸術性があり、そこにこそ自由に人が楽しめる場が出てくる。平易さこそ逆に非常に高度なものである≫(『シナリオ』誌1950年5月号の座談会発言))

令060920 小池 光 歌集 時のめぐりに     (本阿弥書店、平成16年刊)   小池 光 著
(歌人57歳、迢空賞受賞の第7歌集。思い切った遊びに好感。|昨晩の夢はかなしも飛行機のなか畳敷きひとびと正座|揺り椅子にすわりたるままこと切れしエミリ・ブロンテ 草の花が床(ゆか)に|一夜(いちや)にて水の張られし田おもてにとぶ山鳥のかげはひびきて|芋の茎ことさらあかし颱風は南洋諸島をけふ発(た)ちしとふ|グラジオラスの花をつぎつぎめぐりゆきひとつの蜂のそれから知らず|経生会を手玉にとれる小泉に溜飲下がることのあやふく|殉教者の「殉」の一字がおもひ出せず殉死とおもひなほすと出たり|特養に行くときまりて飼ひきたるカナリアを空に放てりしとふ|だんだんに山椒太夫に似てきたる男の顔の五十七八(しっぱち)

令060915 星を編む     (講談社、令和5年刊)   凪良ゆう 著
(『汝、星のごとく』の激しい余韻3篇。うち第1篇の「春に翔ぶ」の明日見菜々に なっちゃんを投影して読んだ。主人公・北原草介が26歳の高校教師の日々から73歳の瀬戸内の年月までを第1篇と第3篇「波を渡る」で描く。第2篇「星を編む」は直接に『汝、星のごとく』の後日談だ。人間関係の多様さに誠実に向き合い、突沸する感情の存在に温かな目を向ける著者・凪良ゆう。やはり女性の内面を描くのが得意のようで、ボーイズラブも主題に据えるのはその延長線上か。)

令060913 破砕     (岩波書店、令和6年刊)   Gu Byeong-mo 著、小山内園子 訳
(60代の爪角の『破果』に先立つ10代の爪角の前史。彼女が男と山に入る経緯は明確に語られないが、これもまた屈折した恋のように思える。)

令060912 辞書になった男 ケンボー先生と山田先生     (文藝春秋、平成26年刊)   佐々木健一 著
(関係者取材に同席しているような臨場感を与えてくれる労作だが、見坊豪紀氏や山田忠雄氏のような基本常識を欠いた人がベストセラー辞書の個人編修をするに至ったのは、つまるところ日本の国語界の人材払底を物語るものだ。これら人士に英米仏の優れた中型・小型辞書に学ぼうという姿勢が、かけらも無いのが嘆かわしい。不適任の人士がのさばるハメになった日本の学術の水準の低さを再認識させられた。)

令060908 悪党たちの中華帝国     (新潮選書、令和4年刊)   岡本隆司 著
(書名は歌舞いているが正統派の名著。この本と『マオ』を読めば中国史は足りる気がする。現代日本人から見れば至極まっとうな五代十国の馮道、陽明学左派の李卓吾、明治漢語から「新文体」の現代中国語を作った梁啓超らが、疎まれ蔑まれるところに中国の中国ならではの悲劇がある。その延長線上に劉暁波があり趙紫陽があり李克強がある。『貞観政要』の太宗を賢帝と思っていたが、何のことはない、やったことはほぼ隋の煬帝と同じで、性格と時運が両人をネガとポジにしたと知り愕然。万暦帝は手許不如意には新しい手立てをどんどん思いついて実行するから暗愚ではないが、明敏さを活用する方向がおかしかった。例の万暦10年とは、めざましい治績をあげた宰相・張居正が逝去した年だった。康有為のバカさ加減にもがっくり。)

令060908 陽気なお葬式     (新潮社 Crest Books 平成28年刊)   Людмила Евгеньевна Улицкая 著、奈倉有里 訳
(『モスクワは涙を信じない』を彷彿とさせるロシア人+ユダヤ人ならではの人間臭さ。少女マイカの父が誰なのか、その秘密が徐々に明かされ、マイカ自身もその父も互いに分かりあっていたことが最後に明るみに出る。主人公アーリクをはじめ登場人物たちもストーリーの舞台もじつに魅力的。この作家の作品、他のものも読んでいきたい。)

令060905 ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? Does the Future Sleep Here? 国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ Revisiting the museum's response to contemporary art after 65 years    (美術出版社、令和6年刊)
(2024年3月12日~5月12日、国立西洋美術館での特別展図録。1983年生まれのユアサエボシさんの所論がめちゃ面白い。架空の1924年生まれユアサヱボシは福沢一郎のもとで学び山下菊二と付き合いがあり猪熊弦一郎が力づけたという設定で、なるほど納得の作風解剖だ。|私塾兼アートコレクティヴのパープルームを運営する梅津庸一さんの溶解したパウル・クレーみたいなのもいいし、戦後にバリに沈潜するペインターFを措定してみせた小沢剛さんもイカす。|現代アート側の作家に大竹伸朗さんとかもってこなかったのは、大竹さん級のひとだとクッちゃうからだろうけど、そのいっぽう現代アート側の作家たちに「いいんだけど小粒」感もあり。)

令060904 村上隆のスーパーフラット・コレクション     (カイカイキキ、平成28年刊)
(2016年1月30日~4月3日、横浜美術館の特別展の図録。巻末の豪タスマニア州 Mona オーナー David Walsh さんとの村上隆対談や、ご自身のコレクションのめり込みの経緯、魯山人の胡散臭さゆえの凄さについてなど、おもしろい。)

令060902 悪筆論 一枚の書は何を物語るか ― 書体と文体    (藝術新聞社、令和5年刊)   石川九楊 著
(副題の意は、書体から書き手の好む関心事や語彙を割り出せると。なにせカバーの中上健次のくちゅくちゅした字体が強烈だ。三島由紀夫の書をお習字と喝破するが、そこに意外にも顕著な紋切調の表現(抽象的・常套的比喩)の頻出まで予見できるとは。太宰治の文中の括弧注記の多さを、半言葉状態のカオスをすくいあげる道化心の表われと見る ― ふん、プルーストもそうだったのかも! 松本清張は凡庸な歌謡曲ゆえ大衆に支持された(ぜったい読まぬぞ!)|それにしても九楊さんの重ね重ねの俗論、日本語は単一言語でなく漢字語とひらがな語の混合体、二重二併の言語なりという説には幻滅のかぎり。せっかくの卓論の書もこれで台無し。)

令060902 失われた時を求めて9 ソドムとゴモラ Ⅱ      (岩波文庫、平成27年刊)   Marcel Proust 著、吉川一義 訳
(ヴェルデュラン夫妻のラ・ラスプリエールの別荘で展開される社交は、行き帰りの列車内の情景も含め、これまでの社交場面とはまた別の趣き。いけずなモレルのとんでもなさが笑わせるし(「わたし」は祖母の性格を受け継いで人間の多様性をそれとして楽しむ)、極めつけは某貴族が色宿の豪華ホテルぶりに惑わされて皆が止めるのを振り切って途中下車するシーン。いっぽうアルベルチーヌは、白地に青の水玉模様のブラウスを着て若い動物のように軽やかにぴょんと車内の「わたし」のそばに飛び乗る。|≪頑固者とは他人に受け入れられなかった弱者であり、他人に受け入れられるかどうかなどには頓着しない強者だけが、世間の人が弱点とみなす優しさを持つ≫)

令060828 ニッポン vs 美術 近代日本画と現代美術:大観・栖鳳から村上隆まで    (東方出版、平成18年刊)   大阪市立近代美術館建設準備室 編
(2006年10月28日~12月10日の書名と同名の展覧会(大阪)図録。秦テルヲ、島成園、生田花朝。パンリアル美術協会の5人。堂本父子。今井俊満についてアンフォルメルしか知らなかったが、その後に「花鳥風月」シリーズで引用の技、そして最晩年にコギャルを描く。すごい。中ハシ克シゲの「不二」、冨永奇昴が発泡スチロールにシンナーで書いた「馬鹿」もおもしろい。)

令060825 世界は経営でできている     (講談社現代新書、令和6年刊)   岩尾俊兵 著
(「価値有限思考」=ゼロサム思考に毒されて短期利益・部分最適志向に陥り「限りあるものを奪い合う」ことに汲々とする生き方を捨てて、協同で価値を作りだす「価値無限思考」へ踏み出そうというのが本書のメッセージ。「令和冷笑体」と自虐しつつ実に分かりやすい筆致は、苦労の経歴の成せる業か。手段と目的の取り違いが多くの悲劇を生むことを豊富に例示する。|≪友情とは相手の中に自分の分身を見つけ、自分の分身を愛することを通じて自己愛から他己愛へと至る感情。≫|≪藝術が成立するには作品の価値が創造され理解される「藝術ネットワークの経営」が不可欠。≫|≪危機そのものが政権・王朝を滅ぼすのではなく、むしろそれらが日常的に直面している危機に対処できないほど落ちぶれたときに、危機という最後のひと押しで滅びる。≫)

令060821 完本 仏像のひみつ     (朝日出版社、令和3年刊)   山本 勉 著、川口澄子 画
(好著。内容を書き出してA4判1枚のメモにした。|日本の神さまにはもともと姿がなく、神さまの像とは神さまが何かほかのものに姿を借りてあらわれた、その姿を写したもの。|仏像を作る国のなかで作者に仏師という地位を与えるのは日本のみ。中国の仏像は、つくりものの内臓を入れていることが多い(←確かに見た覚えあり!)。|「キンデイ塗り」とか、ウンゲン(繧繝)、コン・タン・リョク・シ(紺丹緑紫)など、ときにカタカナ書きを効果的に使っているのも好感。)

令060820 西洋絵画のひみつ     (朝日出版社、平成22年刊)   藤原えりみ 著、いとう瞳 画
(前半は新旧約聖書に密着し、はたまた“異教”の神々や十二弟子のアトリビュートについても目配り。後半は、風景画・静物画がいかに宗教画を口実としてスタートしたか、ヌード画が何を口実としてスタートしたか、要すれば印象派以前の絵画全般を理解する切り口がもらえる。)

令060818 勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門    (ダイヤモンド社、令和5年刊)   Eva van den Brock・Tim den Heijer 著、児島 修 訳
(読みやすく、包括的。高校生のための心理学入門として絶妙。恩返しならぬ「恩送り」というすばらしい言葉を知った。自己紹介の目的が、お互いの共通点を見つけて連携しやすくするためというのも発見。ぼくはこれまで、とかく自分のユニークなところ、特異性を見せつけるのが自己紹介だと思っていた。|人はいつもと違う行動をするのが面倒。脳はじつはフル活用されているので、さらなる努力を避けようとするのが脳の戦略。意思決定の95%は自動的。人は選択肢を示されるのを好むが、選択するのは好きでない。人はいったん所有したものに高い価値を見出す。後悔を過度に大きく見積もる。|長い休暇の最後にイヤな雑用はしない。休暇の記憶じたいが台無しになる。|目標は具体的に想像するほど達成しやすくなる。カネや時間がないとき、人は近視眼的な反応をしてしまう。)

令060816 日本一の靴磨きとピカソ     (笑がお書房、令和4年刊)   パブロ賢次(赤平健二)著
(中ほどまではひとを食った本だが、後半はがぜん良質のアートの手引書。色彩は2色か3色の組合せがいちばんきれいに見えるので、2~3色しか使ってないと思える絵を描くと品のいい作品になる。なぜ具象絵画でない作品だけが超高額で取引されるか。ワケが分からず特定の基準がないからこそ値段を「作れる」からだ。|マチスの魅力は絵に「苦労の跡」が出ていないこと。|セザンヌはキュービズム理論により描いたわけではなく、単純に、絵を上手に描けず作為なく自然発生的にああなって結果的にアカデミズムを超えてしまった。)

令060813 失われた時を求めて8 ソドムとゴモラ Ⅰ      (岩波文庫、平成27年刊)   Marcel Proust 著、吉川一義 訳
(冒頭のシャルリュス男爵とジュピアンの件のようなのが延々つづくのかと懸念したが、中心となるのは奇想と変化に富んだゲルマント大公邸の夜会で、これまで折節出てきたドレフュス事件への各人の論評が納得の総括を得る。それにしても貴族たちが本人の前で毒舌を吐いてみせる素っ頓狂といったら!|ニコラ・プッサン「嬰児虐殺」(1625~29年)は人物の集約による劇的な構図で、現代アート超えしているな。|≪愛のあかしをわがものにしたいという欲望から出た行為よりも、愛するひとに与えた苦痛を償おうとする人間的欲求から発した行為のほうが、ひとりの女性への振る舞いにおいて大きな位置を占める。≫|本作においてプルースト自身を体現するのは語り手の「わたし」ではなく、むしろシャルリュスやスワンなどの登場人物に仮託されている。)

令060813 13歳からのアート思考 「自分だけの答え」が見つかる    (ダイヤモンド社、令和2年刊)   末永幸歩(ゆきほ)著、佐宗邦威 解説
(アートをお題目にした二番煎じのビジネス書かと思っていたら、良質のアート史のテキストだった。「技能・知識」偏重の美術科へのアンチテーゼ。アート思考とは、自分自身のなかに興味のタネを見出し、探求の根を伸ばして、自分ならではのアウトプットをすること。|情景のすべてにピントが合うことは、人間の視野では起こらない。人間は無意識に目を上下左右に動かし、複数の角度から見た世界を脳内で1つの景色として合成している。|いま美術館にあるデュシャンの「泉」がレプリカなのは知っていたが、じつはオリジナルとは形もサインの形も異なる。とある美術商がフリマで手にいれた中古便器にデュシャンからサインをもらったもの。だから真面目に鑑賞する人を「デュシャンは鼻で笑っただろう」という著者コメントがおもしろい。|≪ウォーホルは「これがアートだなどと言える確固たる枠組みはどこにも存在しないのでは?」と問いかけていたのだろう。そしてMoMAは、アートという枠組みがなくなったあとの平原に立ち、自らの見方で本当にすぐれたものを選び出そうとしている。≫|≪一向に成果が出なくても、ちゃんと自分の興味に向き合っていれば、必ず点と点はつながる。≫|佐宗氏曰く≪自分の内面に眠る妄想の解像度を高め、ビジョンとして表現する=アーティスト的生き方≫)

令060812 科学的根拠に基づく最高の勉強法     (Kadokawa 令和6年刊)   安川康介 著
(脳がいかにも勉強したような自己満足を覚える負荷のかけ方(再読、下線引き、抜粋書写)では効果は薄くなる。誰かに教えるフリをしながら、学んだことのアウトプットをすると良い(ブツブツつぶやいて教えるフリをしながら書き出す白紙勉強法=アクティブリコール)。|第3章の記憶術はサイテー。英単語を語呂合わせで覚える話など、アホかと思った。これで評価がかなり落ちた。巻末の10頁にわたる参考文献リストも著者の自己満足だ。むしろ索引をつけてほしかった。)

令060810 海の鎖     (国書刊行会、令和3年刊)   Gardner R. Dozois et al. 著、伊藤典夫 編訳
(圧巻の Chains of the Sea は、ふつうのヒトとエイリアンのほかに、ヒトが感知できない妖精諸族(トミーだけは意思疎通できる)、そして主体的存在として地球の真の政府を構成する AI がちぐはぐに動き、ヒトはあっさり滅びる。1973年作だが、AI の肌感覚は的確。|Another Little Boy は面白半分の2044年にヒロシマに再度原爆を落とす、コンプラぶち切れのストーリー。|After King Kong Fell は、映画という虚構と、そこから飛び出す「リアルなキングコング」というメタ虚構、そしてそれを孫に語る今日のリアル――という三重構造がすごい。|The Last Jerry Fagin Show は、地球来訪前に地球のジョークを吸収しつくし最強のコメディアンになっちゃった、いわば ChatGPT 化したエイリアン。1980年作だ。)

令060809 勇気論      (光文社、令和6年刊)   内田 樹(たつる)
(名著。人間の内面のぞわぞわ感=直感のちからに、とことん向き合おうとする。このだいじなエレメントに素直に従うために、じつに意外にも、必要とされるのは勇気。勇気こそが「考えないうちに動く身体」を作り、惻隠の情を養う。|「論理的である」とは、常識や思い込みに邪魔されることなく「これしかないだろという論理の飛躍」をするための助走。論理の飛躍なくして真の発見はない。だから論理の飛躍を前提としない「論理国語」という科目は邪道。|「仲裁する」ことの意味を本書で深く知らされた。それは「あっち向き、こっち向き」すれば済むものではなくて、引き受ける義理のない痛みを引き受ける者が身銭を切って行うもの。なるほど、だから「米中の仲介役」などというものは重い負担を背負い込まなければできるものではないわけだ。|「どうしていいかわからない時にもどうしていいかわかる」ことの大切さ。|「不快・無意味・不条理に耐える」という生き方をすると、自分の感受性を犠牲にせざるを得ず、最も肝心な「自分に呼びかけてくる声」が聞えなくなる。「悪いことの予兆を感じる能力」も失い、大事なアラートが働かなくなる。)

令060801 古代文字の解読     (岩波書店、昭和39年刊)   高津春繁・関根正雄 著
(2024年になって講談社学術文庫で復刊されて、本書の存在を知った。亡国の遊牧民アラム人が独立を失ってアッシリアにより四散され、かえってその言語と文字が広がり近東の通用語となったとは! 漢人もそれに似ていよう。第2章 エジプト聖刻文字の解読、第3章 楔形文字の解読がおもしろい。意外にもエジプトの文字は基本的に表音文字であり、いっぽう楔形文字はユニットごとに日本語の漢字の訓読みと仮名文字のごとく機能する。形声文字の偏のごとく意義のカテゴリー分けのために機能する「限定文字」というエレメントも存在する。解読に資したのは、まずもって一連の固有名詞。そこからユニットごとの発音が類推された。)


© Rakuten Group, Inc.
X